マクラーレン調査報告書:IWFの汚職やドーピング隠蔽
以前、国際重量挙げ連盟(International Weightlifting Federation 略してIWF)の不正疑惑について記事を書きました。
当たり前ですが、IWFの数々の不正疑惑に対して世間は黙っていませんでした。国際オリンピック委員会(IOC)も不正がただちに調査されることを要求しました。その後、カナダ人弁護士であるリチャード・マクラーレン氏が率いる調査チームが数か月間にわたってIWFの不正について調査することが決定されました。
マクラーレン調査チームが発表した調査報告書がこちらです。※全文英語になります。
なんと120ページ以上にわたってIWFの不正(主にタマス・アヤン元会長がやったこと)について記載されています。
ちなみにこちらの調査報告書に関しましては日本のネットニュースでも取り上げられました。
リチャード・マクラーレン
リチャード・マクラーレンとは誰なのでしょうか?
彼は主にスポーツ法学を専門とするカナダ人の法律家です。
少し前に「マクラーレン報告書」という言葉をニュースで聞いたことはありませんか?実は、彼こそが2016年にロシアの国家ぐるみのドーピング隠蔽工作を暴いた張本人です。
今回のIWF不正疑惑に関してもマクラーレン氏のチームが調査を任せられました。
タマス・アヤン
タマス・アヤン氏(81歳)は国際重量挙げ連盟の元会長です。1976年から書記長としてIWFに勤めており、2000年には会長に任命されました。つまり合計44年間IWFに勤めていたことになります。
アヤン氏は今年1月に不正疑惑が表沙汰になったため会長の座を一時的に降ろされていました。この時アヤン氏は3か月間の一時降任を命じられていましたが、この期間中に様々な問題を起こしてしまい4月には完全に辞任することになりました。
どんだけ問題起こすんだおじいちゃん!
Inside The Gamesの記事(※全文英語)によるとこの3か月間の一時降任期間中
臨時代理会長であるパパンドレア氏に対する恐喝
IOCとの会議に参加
IWF銀行口座調査の妨害
その他「会長としての通常通りの業務」
等をやっていたらしいです。もはや反省の色ゼロですね。😅
マクラーレン報告書
では本題に入っていきましょう。
6月4日に発表された今回のマクラーレン報告書の内容はどういったものなのでしょうか。全文を私一人で翻訳することは難しいので概要をまとめておきました。
今回の記事を作成するにあたってAll Things GymとWeightlifting Houseの記事を参考にしています。
主な調査結果:
タマス・アヤン氏の「国際重量挙げ連盟の独裁的で権威主義な指導により、理事会は機能不全で非効率的な管理を行っていた」
アヤン氏はお金を利用して全て支配しようとした
アヤン氏はドーピング検査活動を妨害した
40件以上の隠しドーピング検査結果が発見され、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)に送りつけられた
ハンガリーアンチドーピング組織(HUNADO)に責任はなかった
IWFの財務記録はめちゃくちゃだった
過去に行われた会長や役員達の選挙では票の買収が行われていた
アヤン氏は自身の20年の大統領として在任期間を保証するため、ひいき、報酬、罰によってIWFの各連盟を操っていた。
Dr. Aján controlled the IWF’s Member Federations by patronage, reward and punishment using different types of manipulative controls, which guaranteed his 20-year tenure as President.
調査に対する抵抗
マクラーレン氏によると理事会役員や各連盟の会長達が証拠の引き渡しを拒否し、調査を妨げようとした。
8名の理事会メンバーの内2名のみが調査に協力し、5名の大陸連盟会長の内1名のみが自主的に協力した。協力要請を拒む者もいた。
マクラーレンの調査チームは20ヵ国の連盟から情報を要請したが、回答したのは4ヵ国のみであり、有益な情報源は一つのみだった。
1040万ドル(約11億3000万円)が行方不明
隠し口座や不完全な財務記録により凡そ1040万ドルが行方不明の状態である。
ルーマニア重量挙げ連盟はIWFへの支払いの領収書等を調査チームへ提供した。提供された領収書はIWF側の領収書と一致しないことが判明。出納帳があればこの不可解な不一致に関しても調査ができたのだが、なぜか出納帳は廃棄されていた。他の連盟からの支払いにも似たような事例がいくつか発見された。
とある証言によると:アルバニア重量挙げ連盟メンバー4名がアヤン氏に現金で10万ドルを手渡しするためにわざわざティラナから運転してハンガリーのブダペスト(当時のIWF本部)に向かった。アヤン氏はドーピング違反による罰金が現金で支払われない場合、アルバニアを2016年リオ・オリンピックから除外すると脅した。
わざわざ現金での支払いにこだわるところが非常に怪しい。
アヤン氏によるIWFの独裁
アヤン元会長によるIWFの支配は彼が会長に就任するよりずっと前から始まっていた。
彼は以前24年間書記長として勤めていたが、その間IWF本部をオーストリアからハンガリーに移した。(当時の会長はオーストリア人だった)
つまり…実質的にIWFは44年間アヤンの支配下にあったことになる。
アヤン氏はソビエト連邦時代によく使われていた「独裁主義的な管理方法」を駆使してIWFを支配した。現金で支払われたドーピング違反罰金を利用し、連盟のメンバー達にわいろをつかませ自分が会長になるよう投票させた。
アヤン元会長は自分のポジションを維持するために下記を行っていた
権力維持のために票を買収
連盟の資金および銀行口座の独占
現金振り込みや引き出しの記録の独自管理
IWF事務局職員の採用管理
アンチドーピング委員会への介入
アヤン氏は彼の親しい友人や親族を重要な役割に採用することでIWF事務局を支配していた。
不正選挙
アヤン氏は投票規則を曲げたり、お金を利用したりして自分の権力を維持した。賄賂として五つ星ホテルでの宿泊券や高級クルーザーの利用券等も提供していた。票ごとに5,000ドル~30,000ドルかけて買収されていた。
わいろを受け取った議会メンバーは特定の手順に従って投票をした。確実に不正が行われるようわざわざ投票用紙の記入見本まで準備されていた!(84ページ目)
「正しい」投票をしたかどうか確認するため投票用紙の撮影が証拠として求められていた。
マクラーレン調査報告書には議会メンバーが自身の携帯を利用して投票用紙を撮影しているところの写真が載せられている。(86ページ目)収賄者たちが自身の投票用紙撮影後に投票を変更したりできなくするため2017年にアヤン氏は投票規定を改定した。消せるペン等も使用できなくするため印鑑の使用が義務付けられた。
アンチドーピング活動の妨害
本来であればIWFの会長がドーピング防止活動に関わることはないが、アヤン氏は何度も直接かかわっている。
40件の陽性結果がIWFの記録に隠されていたことが調査で判明した。これには、検体を処理されなかった金メダリストや銀メダリストも含まれている
The investigation uncovered 40 positive Adverse Analytical Findings hidden in the IWF records. This includes gold and silver medalists who have not had their samples dealt with.
アゼルバイジャンオリンピック委員会はアヤン氏宛に感謝の手紙を送っていた。アヤン氏は複数のアゼリー人選手達がイスラム諸国競技大会に出場できるよう彼らの処罰を見送っていた。
18名のアゼリー人選手が複数の試合(世界選手権を含む)に出場できるようドーピング違反の処罰が見送られていた。
これのせいで表彰台に立てなかった選手たちは悔しい思いをしているだろう….
26件のトルコ人選手ドーピング検査結果が正しく処理されていなかった。それ以外にも40件以上正しく手続きされていないことが判明した。記録と管理が正しく行われていなかったようだ。
アヤン氏は「ダーティーなサンプルはクリーンに、クリーンなサンプルはダーティーに」することができると言いながら周りに自分の権力を誇示していた。
アヤン氏はニク・ヴラド氏(ルーマニアン重量挙げ連盟会長)にこう言った:「忘れるな。次オリンピックに参加する国々を決める時、東京に行けるかどうかを決めるのは我々だ。」
Ajan told Nicu Vlad (President of Romanian WF): “do not forgot, next time we must decide the countries inside the Olympic games or outside, we will decide who will be in Tokyo and who will not;”
マクラーレンからの今後の推奨事項
マクラーレン報告書にはIWFが直ちに取るべき行動と今後の方針がいくつか記載されている。推奨事項の概要は下記の通りである:
直ちに取るべき行動
独立した組織による監査を行う
投票方法の変更
高額の現金支払いや授受
財務管理の改善
匿名での告発ホットラインを設け続ける
長期的な推奨事項
今後同じような腐敗・不正が起きないよう組織の構成及び体制を全体的に変える必要がある
調査報告書を読んで思ったこと
正直に言いますと色々と疑問が浮かび、納得がいかない部分がいくつかありました。ARDのドキュメンタリーで浮上していた疑惑が全て調査されたわけではないので…
すでにこの記事も長いですし、私個人の感想はまた別の記事で述べたいと思ってます。いつものウエイトニュースのポッドキャストでも話したいと思います。